アグレッシブスケーターの鈴木悠人さんがストリートにこだわって制作したフルパートビデオ「MENTAL SKETCH」が、11月に公開されました。
筆者は公開に先駆け、11月5日の夜に開催された試写会イベントに行ってきました。
映し出される技の難しさが分かるスケーターばかりが集まっていたので、難易度の高いスポットを攻略した時や、カッコいい技を決まった時には、拍手や歓声が上がりました。こういった共感と盛り上がりは試写会イベントならではの楽しさです。
しかし動画の主戦場がDVDからSNSに移ってから、フルパートのビデオを発表することが減り、特に国内でこういった試写会の話を聞くことがほとんどないのがとても残念です。
それはともかく、この試写会では、真剣にスケーターの技を注視した後は観客が沸くということが繰り返され、一体感で包まれた30分間でした。
さて、ビデオの内容ですが、巨大ステアを飛ぶようなド派手なハンマートリックは出てきません。
しかし本ビデオの製作者である鈴木悠人さんや河合英樹さんを始めとする各スケーターが、街中のスポットを抜群のテクニックとセンスが光る技で攻めています。
例えば、佐藤孝憲さんの公園の柵を使った14分37秒からのパート。
『これは足を取られて激しく転ぶ!』と思った次の瞬間、自分が予想したのとはまったく違うクールな展開に!
でも佐藤孝憲さんは、スポットを見た時にこの一連の流れを思い描いて、それを実現させたのだと思います。
非スケーターからすると何の変哲もない街角で、スケーターがスケーター目線で心に滑る姿の画を描き、それを自分自身で現実世界に描き出し、さらにその滑りをフィルマーが丁寧に映し取る。その積み重ねを丹念に紡いでいったのが本作だと思います。
またBGMの渋い選曲も素晴らしいです。
はっぴいえんどが聞こえたと思えばブラームスのクラシックが流れてきたり、映像にドンピシャな曲にもこだわりが詰まっているのが感じ取れるはずです。
そして、エンディング曲の冒頭で「誰もいない でこぼこを道歩いてく」と聞こえてきますが、まさにその「でこぼこ道=街中スポット」をどうやって「歩いてく=滑ってく」かを心に描き、そしてそれを体現していった様を切り取っていった一作になっています。
インラインスケートのビデオは無数にありますが、1回観て満足して終わるのではなく、何度も最初から繰り返し観たくなる作品は年に1本出会えるかどうか。
そしてこの「MENTAL SKETCH」は、まさにそのような1本です。
ぜひお気に入り登録をしておいて、テレビの年末特番に退屈するたびに、ベテランのインラインスケーターたちが描き出した世界に浸ってみてはどうでしょうか。